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2022年5月9日月曜日

●映画紹介「教育と愛国」(斉加尚代監督)

  ●映画紹介「教育と愛国」(斉加尚代監督)

ここまで来た「教育」への政治介入〜5月13日から全国公開

レイバーネットから

http://www.labornetjp.org/news/2022/0425eiga


根津公子(「君が代不起立」教員)の投稿

 「子どもが主体」であるはずの学校教育が、21世紀に入って急速に政治利用のための学校教育になってしまったことを、映画は明確に示している。その象徴的出来事が、育鵬社の中学校歴史教科書の登場だった。同書を執筆した伊藤隆・東大名誉教授は、「ちゃんとした日本人をつくる=左翼ではない」が執筆の目標で、歴史から何を学ぶかの質問については「学ぶ必要はない」という。そして安倍政権を高く評価する伊藤教授は、「最終的には憲法改正」をしてほしかったが、それが「できなかったのは残念」とまで言い切る。このドキュメンタリー映画は、近年の教科書検定をめぐる攻防を追いながら、政権与党による教育の政治介入に強く警鐘を鳴らしている。

 民衆の歴史に視点を当てた「学び舎」の教科書を採択した私立中学校に「反日極左の教科書を即刻中止」との脅迫はがきを送った首長は、「尊敬する人から」声をかけられ「教育再生会議の長として送った」と言うが、「学び舎? 知りません」。森友学園元理事長は、「当時は日本会議の幹部であったから、指示に従った」「(はがきを)執拗に(送った)」と。やはり、教科書は読んではいない。これが、日本会議や自民党政権に与する側のやり方なのだと知った。この映像を記録し世に流すことは、脅迫葉書のように監督の斉加さん自身が、身の危険を覚悟しなければならないことなのだ。

 2014年、文科省は社会科教科書の検定基準に3点を追加した。「ア 特定の事柄を強調し過ぎないこと。イ(略)、ウ 閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には,それらに基づいた記述がされていること」と。すぐさま各社教科書は「日本固有の領土」と書き変えられ、地図帳に国境線が書き加えられ、隣国との話し合いによる解決の道を否定した。昨年は日本維新の会の質問に対する菅首相答弁書を閣議決定し、「従軍慰安婦」「強制連行」の言葉を教科書から消した。学問研究で得た史実ではなく、政府見解を「正解」とした教科書は、もはや国定教科書ということだ。教育への政治介入は学校教育にとどまらず、ジェンダーを研究する大阪大准教授への国会議員のバッシングに向かい、さらには日本学術会議の新会員任命拒否にまで及んだ。

 映画は、大阪・毎日放送ディレクターの斉加さんが2017年に制作した話題作・『映像’17 教育と愛国~教科書で今何が起きているのか~』が基になる。これを映画にしようと声をかけられたが、忙しさから諦めてきた。しかし、日本学術会議の任命拒否の事態に、俄然やらねばと思ったという。任命を拒否された岡田正則教授を訪ね、また、岡田教授の講演も記録する。

 私は2011年に定年退職するまで東京公立学校の教員で、「君が代」起立の職務命令を拒否したとして懲戒処分を受け続けた。それ以前にも「日の丸・君が代」「従軍慰安婦」の授業等で4回の処分を受けた。映画を観ながら、いま私が在職していたら間違いなく免職にされていたと思った。私自身は、処分され、右翼団体からの嫌がらせに遭いながらも、政権に加担せずに必要と考えることはほぼすべて授業等で取り上げることができた。まだ、時代が多少ともよかったからだ。

〔斉加尚代監督/2022年/日本/107分/配給 きろくびと〕映画は、東京では、5月13日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、UPLINK吉祥寺で公開。同日、京都シネマでも公開され、順次全国上映の予定。予告編は https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/。また斉加さんが緊急出版された『何が記者を殺すのかー大阪発ドキュメンタリーの現場から』(集英社新書)も併せて読んでいただきたい。