5/27 、6/10都教委定例会 根津さんの傍聴報告
●根津公子の都教委傍聴記
「オリ・パラ観戦への子どもたちの動員止めよう」と教育委員はなぜ言わない!
「オリ・パラ観戦への子どもたちの動員止めよう」。今日の定例会でこの発言があるかが、私の一番の関心ごとであった。しかし、今日もなかった。JOCの理事でもある山口香教育委員は、「個人的見解」と断ったうえで、五輪開催自体を止めるよう発言している。ならば、東京都の教育委員として、全都の子どもたちの安全を真っ先に考え発言し行動すべきではないか。教育委員は「人格が高潔で、教育、学術及び文化…に関し識見を有するもの」とされる。識見を有する者の「個人的見解」を、職務の中で生かすことこそ、教育委員の職務であり責任ではないか。政権への加担を看過することはできない。
★さて、今日の議題は
公開報告が①来年度の教科書採択に当たっての選定審議会の答申について ②昨年度下半期に寄せられた都民の声、
非公開報告が③「いじめ防止対策推進法」30条第1項及び第28条に基づく報告について。
はじめに③について。「いじめ防止対策推進法」30条は「重大事態が発生した旨を、当該地方公共団体の長に報告しなければならない」であり、同28条は「学校の設置者又は学校は…学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする」というもの。いじめによる重大事態が、またも発生したということだ。
★①来年度の教科書採択に当たっての選定審議会の答申について
今夏の小中学校教科書採択についての基本は次の3点。ウについては、「採択替えを行うことも可能」と文科省が各都道府県教委に通知したことによる。
ア.小中学校の教科書は、採択から4年間は同一の教科書を使うことになっていて、小学校は一昨年、中学校は昨年採択したので、原則、今年は採択しない。
イ.来年度開校となる立川国際中等教育学校附属小学校で使用する教科書の採択
ウ.中学校社会科歴史的分野の教科書は、自由社が1年遅れで検定に合格したことから、採択替え(再採決)を行うことも可能。
選定審議会の答申「調査研究資料」のうち、小学校、特別支援学校用教科書調査研究資料については割愛し、今年の採択の焦点となる中学校社会科歴史的分野について、以下述べる。
自由社歴史的分野についての調査研究資料は、昨年度までの歴史的分野と同様に、「時代区分別のページ数、割合」「取り上げられている歴史上の人物とその数」「東京に関する歴史的事象を取り上げている箇所数」などの一覧のほかに、「領土をめぐる問題の扱い」「国旗・国歌」「神話や伝承」「北朝鮮による拉致問題」「オリンピック・パラリンピック」等についての記述を調査している。都教委の基本方針に沿ってのこと。
「国旗・国歌」では、「明治国家を背負った伊藤博文 感銘を与えた『日の丸演説』国旗日の丸を指し『あの赤い丸は今まさに昇ろうとする太陽を象徴し、日本が欧米文明のただ中に向かって躍進する印であります』と述べ、大きな拍手を浴びました。『日の丸演説』と言われています。(P197)」等と、「神話や伝承」では、「以上のほか、日本には皇紀があります。日本書紀に書かれた初代・神武天皇が即位したとされる伝説上の年を元年とする年の数え方で、皇紀元年は西暦紀元前660年にあたります。(P10)」等というように教科書の記述を紹介する。こうした記述を読めば、自由社版がいかに偏った内容であるかがわかる。
昨年度まで都立中学校・中等教育学校及び特別支援学校が使っていた歴史教科書は、育鵬社版。特別支援学校は一時、自由社版を使っていた時期もある。自由社と育鵬社は内紛で別会社になったが、もともとは扶桑社で、従来の歴史教科書は日本を貶める「自虐史観」だと主張してきた人たちが作った教科書であり、どちらも子どもたちに渡してはならない。今年度、都立中学校・中等教育学校が使用している教科書は、「新しい歴史教科書をつくる会」系が嫌う「いわゆる従軍慰安婦」を記述する山川出版であり、肢体不自由・病弱特別支援学校は東京書籍である。都立中学校等がやっとのこと、育鵬社、自由社教科書を使わなくなったのだった。
すでに横浜市教委は、社会科歴史的分野について、採択替え(再採決)をすると決定した。都教委は7月後半の定例会で教科書採択を議案にする予定にしているから、そこで採択替えを行うかどうかも決めるのだろう。注視していきたい。
★②昨年度下半期(10~3月)に寄せられた都民の声
寄せられた都民の声は5440件。そのうち、性質別では「苦情」が73,9%、「要望」が17,2%、分野別では「生徒指導」が44,9%、「健康管理」が16,3%。「苦情」は「新型コロナ感染防止のため、電車内での会話は控えめにするのが当然なのに、高校生とは思えない騒ぎ方をしている」など。「健康管理」のほとんどは新型コロナ感染症に関するもの。こうしたことについては都教委はすぐに対応し、対応を報告する。しかし、「日の丸・君が代」等については、依然として聞く耳を持たない。
●根津公子の都教委傍聴記(5月27日)
差別選別・「エリート」育成の教育施策を止めて
★今日の議題は、
(1)来年度開校する「都立立川国際中等教育学校附属小学校の1年生児童の募集人員等について」及び同行「入学者決定に関する実施要項・同細目について」
(2)都立立川高校に設置する理数に関する学科の入学者選抜方法について」
(3)都立白鷗高校・附属中学校の高校段階での生徒募集停止と中学校段階での生徒募集規模拡大の予定年度について」
(4)「立川国際中等教育学校附属小学校使用の都独自英語教材の作成について」
(5)「SNSを活用した教育相談実施状況(昨年度)について」。
(1)~(4)のすべてが差別選別、幼児・小学生段階からの競争を激化させる施策だ。しかし、教育委員からはそうした指摘は今日もまったくなかった。
★コロナ感染が止まない中なのに、都教委はオリパラ観戦に子どもたちを動員する体制を取り続け、そのために教員を競技場に実地踏査させている。教育委員からこのことで発言があることを期待して私は傍聴に臨んだが、発言はなかった。
日本オリンピック委員会(JOC)の理事でもある山口香教育委員は、「五輪を開催すべきではない」とインタビュー等では発言している。しかし、自身が教育委員である東京都教育委員会が全都の子どもたちを直接観戦させることをなぜ、止めないのか。教育委員が必要性を感じる問題については、事務方が出した議題が終了した時点で、教育委員は発言できることになっているし、現にそうしたことはこれまで何度かあった。なのに、なぜ、山口教育委員、それに医学博士の秋山教育委員は、命を最優先する行動をとらないのか。非常に理解に苦しむ。
(1)来年度開校する「都立立川国際中等教育学校附属小学校の1年生児童の募集人員等について」及び同校「入学者決定に関する実施要項・同細目について」
2017年4月の定例会で「公立で全国初の小中高一貫教育校」をつくると、昨年9月24日の定例会では、「高い語学力と豊かな国際感覚を備えた、世界で活躍できる人材を育成」を目標に、「小学校1年生から外国語(=英語)の授業実施、帰国児童・生徒や在京外国人児童・生徒の受入、探究的な学びを重視(=10学年で全員が海外で研究・ボランティア等の活動に参加)する」と報告されていたこの小学校。来年度開校に向けて募集人員及び入学者決定に関する実施要項が報告された。
◎募集は一般募集58名、海外帰国・在京外国人(帰国・入国後1年以内)12名の計70名。
◎受検・入学者決定は、第1次(受検者が一定数を超えた場合には抽選 今年は11月14日)→第2次(「教育理念及び教育方針に基づく適性検査を、筆記、口頭質問や運動遊びを組み合わせて行う 11月28日」→第3次(第2次通過者を対象に抽選 12月4日)で行う。「選抜」ではないと都教委は言うが、第3次は「第2次通過者を対象に抽選」するのだから、「第2次通過」をしない者もいるということだ。したがって、間違いなく選抜だ。
「あの手この手で入学させようとする保護者も現れるだろうから、公平性を担保してほしい」という教育委員の発言に、やはり、すさまじい競争になると教育委員も予測しているのだと思った。しかし、この発言の真意はどこに?「公立で全国初の小中高一貫教育校」をつくった自負心なのか、とも。
(4)「立川国際中等教育学校附属小学校使用の都独自英語教材の作成について」
学習指導要領が示す英語の授業時数は、「3.4年生は各35時間、5.6年生は各70時間」(週当たり、3.4年生は1時間、5.6年生は2時間)。もちろん、1.2年生には英語の授業はない。3年生からの英語は早すぎると批判がある中、昨年度から実施となった。一方、この附属小学校の英語は、「1年生が136時間、2年生から6年生は各140時間」。週当たりの英語の授業時数はどの学年も4時間となる。4年生以上の到達目標は「日常生活での基本情報について英語で理解、説明できる CEFR A1 英検3級」とある(CEFR:外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠)。文科省検定済み教科書のほかに、都教委作成の独自の教材で学ぶという。英語の授業時数4時間は、「一般の学校では1年生は毎日が5時間授業のところ、ここでは6時間授業の曜日を1日つくり、毎日15分間のプラスαの時間で1時間を生み出し、土曜授業を加えて計4時間を生み出す」という。教育委員は「都独自の教科書作りも素晴らしい」「言葉は耳から入ることが必要」云々と、都教委の暴走に掉さす発言ばかり。
過重な授業で落ちこぼされる子どもは生じない、と都教委は考えているのか。いや、一握りの「世界に貢献できる人間の育成」のためには、落ちこぼれる子が出ても構わないとでも考えるのだろうかと気になった。今日の報告にはなかったが、4年前の説明では、「附属小学校から中等教育学校への進学については、本人の日常の成績等を基に、学校が進学者を決定する」とのことだった。この説明に私は、12歳で落ちこぼされる子どもが出ると恐ろしかったが、今日の報告にさらに恐ろしく思った。教育は人材育成ではなく、人格を持った個々人の成長を促し助けることだと声を挙げていきたい。
この小学校の教育予算は一般の小学校のそれの何倍になるのだろう。この点についての「公平性」こそ、考えてほしいものだ。
(2)の立川高校の理数科設置も(3)の白鷗高校・附属中学校の件も、エリート人材育成を掲げる都教委の施策による。差別選別教育は命の重さに違いがあると教え込むことでもある。都教委も課題としている、いじめ・不登校・自己肯定感の低さを解決するには、差別選別教育をやめ、ともに育つ教育を探ることだ。
(5)「SNSを活用した教育相談実施状況(昨年度)について」
都内在住の中高生64万人のうち40120人が登録、うち相談件数は4201件、平均相談時間は39分。学校を通じてのチラシやポスター配布、ライン広告をしたことで相談件数が増えた。内容は、友人関係や家族関係、学業不振、情緒不安定など。相談を受けたのち、警察に通報が1件、虐待通告が12件、学校等に情報提供が6件との報告。「成果があった」と見ているようだ。でも、そうではないだろう。
SNSを活用した教育相談を私は否定しない。しかし、身近にいる教員に相談できる態勢をつくることこそが都教委のすべきことだと思う。必要とは思えない書類作成に時間をとられ、超勤が当たり前となっている教員たちには、子どもたちとおしゃべりする時間がない。子どもたちとおしゃべりしともにゆったり時間を過ごす中で、教員は子どもの表情から問題を見つけることができ、また、子どもも教員に相談したいと思えるのだ。こうした時間的余裕が学校には必要だということを、都教委に分からせたい。 身近な教員への相談とSNSでの相談の成果は、比較するまでもないだろう。