■8月20日、「公正な教科書採択を求める(神奈川)県民の会等は神奈川県教委にたいして、高校日本史教科書採択撤回の要求・抗議文を提出しました。紹介します。
神奈川県教育委員会
教育委員長 具志堅幸司 様
教育長 藤井良一 様
県教委による「高校日本史」教科書採択への不当な介入と「採択決定」の撤回を要求する(抗議文)
……憲法に保障された学問の自由、言論の自由、思想・良心の自由、表現の自由、国民の教育権を踏みにじる暴挙は許されない……
神奈川県教育委員会は、事務局及び教育長による各学校の教科書採択への不当な介入を行い、実教出版の「高校日本史」教科書を排除し、本日、「採択決定」を強行しました。これは、学校の教育課程編成権への不当な介入であり、憲法、教育基本法に違反するものです。
7月23日、神奈川県教育委員会事務局と藤井良一教育長らは、臨時教育委員会後の「委員協議会」で、「(実教出版の高校日本史の)記述は、県教委の指導と相いれない部分がある」と複数の教育委員が発言したことを理由に、学校が希望しても不採択になる可能性が高いと判断し、学校側に使用希望の「再考」の名の見直しを求めることを独断で決定しました。
翌7月24日開かれた県立学校・学校経営研究協議会の終了後、実教出版「高校日本史」教科書を希望する該当校27校の校長を残し(1校は欠席のため電話で指示。計28校)、県教委事務局は、「公開の教育委員会で不採択になる可能性もあり、学校名が公になって混乱を招く。場合によっては、街宣車がくる可能性がある。」と発言し、校長に希望教科書の「再考」を求めました。これにより、各該当校で、事務局の発言と同趣旨の内容を理由として、「再考」の名のもとに希望教科書の「変更」が行われました。
また、8月6日の臨時教育委員会では、「公正な教科書採択を求める県民の会」の学校現場の混乱を指摘する陳述に対して、河野真理子教育委員が「複数の課題が提供されましたので、(教育現場で起こっていることの)事実確認をして対応したいと思います。」と言明しました。しかし、県教育委員会は、その学校現場の「事実確認の調査」を実施せず、最終決定を行いました。
具志堅幸司委員長は、「8月20日の教育委員会で当該教科書を採択した時に様々な問題が出てくる可能性を考えると、今回の判断は良かったと言う風には思っています。
最終決定というのは、教育委員会が採択権者ですので、それは不当だとは思っていません。」と今回の事務局及び教育長の介入を擁護しています。しかし、県教育委員会事務局及び教育長が、県教育委員会の正式な決定を経ることなく、各学校の自主的な教育課程の編成権を侵害し、実質的に学校教育への不当な介入を行ったことは、決して許されるものではありません。具志堅委員長の発言は、教育委員会の信頼を大きく損なうものであり、その責任は重大です。
教科書は、「主たる教材」(教科書の発行に関する臨時措置法2条1項)として各教科の教育指導の基本となるものです。そして、教育とは、「教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ、子どもの個性に応じて弾力的に行われることをその本質とするから」(最高裁大法廷1976年5月21日判決)、教科書の選定に当たっては、実際にそれを使用して授業を行う教師たちの教育現場の意向が最も強く反映されるべきです。
教育委員会が問題であると指摘している、実教出版の「高校日本史A(日A302)」「高校日本史B(日B304)」の国旗・国歌についての記述部分「しかし、一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」との箇所は、国旗国歌法が制定された過去の一時期、卒業式・入学式における国旗・国歌の扱いについて、服務として当然のことと見るか思想良心の自由を妨げる強制と見るかをめぐって熾烈な争いがあったことを踏まえ、検定の際、文部科学省からの要望で書き加えられたものです。それを踏まえて、文部科学省は、実教出版の教科書を検定教科書として認定しました。
したがって、これを問題視するのは、恣意的な政治的判断と言わざるを得ず、県教育委員会が越権的に教科書の二重検定を行ったことになります。
今回の教育委員会による学校教育現場への介入は、教育委員会の職務権限を逸脱するものであり、教育基本法16条の禁ずる「不当な支配」に当たります。
文部科学省は、毎年、各都道府県に対して、教科書採択に関わる「通知」を出しています。併せて「地方自治に基づいて、県民が各都道府県での教科書採択の手続きや内容についての説明を求めていくことや県教育委員会は採択手続き等が県民に十分納得が得られるどうかの説明が求められています。」として、文部科学省は県教育委員会に対し、採択手続きの公開性・納得性を求めています。
今回、県教育委員会は、公開の7月23日の教育委員会での審議を避け、非公開の「委員協議会」で、議題にないにもかかわらず、教育委員の発言だけをもとに、教育委員会の正式な手続きを経ることなく、校長に「再考」を求めるという前代未聞の不当な介入を行いました。これは、採択手続きの公開性という点でも極めて問題です。
また、県教育委員会は校長への「再考依頼」の事実経過を自ら明らかにしようとせず、これを正当化したことは、生徒・保護者・教師などを含め多くの県民の納得性を得られるものではありません。
さらに、県教育委員会は、7月24日に各学校の校長に伝えた「再考依頼」の根拠として、
① 実教出版の希望をする学校が方針を変えずに、不採択となった場合、敢えて「県教委は各校名を公表する」。
② 県教育委員会は、「不採択になると校名が明らかになり、その学校に様々な団体が来て混乱が起こる。また、場合によっては街宣車が学校にやってくる。」
と説明しています。
たとえ学校名が明らかになり、その学校に外部団体が何らかの圧力をかけた場合、その外部団体の行為は、明らかに学校に対する威力業務妨害であり、生徒や教職員に対しての脅迫となります。
県教育委員会の本務は、威力業務妨害や脅迫的手法に屈して、「再考」を求めることではありません。生徒、教職員、学校を守るために行動することこそ本来の責務なのではないでしょうか。
教員は専門職として、教科書の採択に不可欠な役割を与えられるのは当然であり、ILO・ユネスコ勧告『教員の地位に関する勧告』(1966.10.5)では、「教育職は専門職としての職務の遂行にあたって学問上の自由を享受すべきである。教員は生徒に最も適した教材および方法を判断するための格別の資格を認められたものであるから、…教材の選択と採用、教科書の選択、教育方法の適用などについて不可欠な役割を与えられるべきである。」(61項)とされ、「教科書の選定にあたって教員が『主要な役割』を担うことは、国際的な標準であり、日本政府や地方教育委員会も尊重すべきもの」と強調しています。また、『旭川学テ最高裁判決』(1976.5/21最高裁大法廷)では、「子どもの教育は、教育を施す者の支配的権能ではなく、何よりもまず、子どもの学習をする権利に対応し、その充足をはかりうる立場にある者の責務に属するものとしてとらえられているのである。」とされています。
県教育委員会は、憲法及び教育基本法の理念に基づき、「再考」により排除した希望教科書の採択決定を「撤回」すべきです。
学校教育への不当かつ暴力的な政治的介入を行い、非常事態とも言える学校現場の混乱を起こし、生徒・保護者・教職員さらには県民に対する背信行為を行ったことの責任をとるべきです。
もし、神奈川県教育委員会が今回の「採択決定」を撤回しないときは、神奈川県教育委員会委員長具志堅幸司氏及び教育長藤井良一氏に対して、今回の教育現場の混乱と教育委員会の信頼を大きく失墜させた事への責任をとり、辞任することを要求いたします。
2013年8月20日
公正な教科書採択を求める県民の会
「日の丸・君が代」の強制に反対し、学校に「思想・良心の自由」を実現する会
教科書・市民フォーラム
神奈川県教育運動連絡センター
教育行政研究会
請願賛同者一同