5月28日に根津・河原井さんの停職裁判の判決がありました。勝訴!!
近藤徹さんの報告です。
◆都教委にダブルパンチ 河原井・根津裁判 高裁で逆転勝訴!
5月28日、2007年卒業式での「君が代」斉唱時の不起立による職務命令違反を理由とした河原井さん(都立八王子東養護学校・当時)の停職3月、根津さん(町田市立鶴川二中・当時)の停職6月の処分取消訴訟において東京高裁(第14民事部須藤典明裁判長)は機械的な累積加重処分を明確に否定して「裁量権の逸脱・濫用」で「違法」として、両処分の取り消し、さらに精神的苦痛に対する慰謝料各10万円の支払いを命じ、一審地裁判決を変更して逆転勝訴の画期的な判決を出しました。
■判決について
一審東京地裁では、河原井さんの停職3月の処分を取り消したものの、根津さんの停職6月の処分を適法とし、両人の損害賠償請求を棄却していました。また、根津さんは最高裁で減給6月、停職1月、停職3月の取消請求がを棄却されており、東京高裁での逆転勝訴は無理だと思われていました。
須藤裁判長は、主文」を読み上げた後、「判決要旨を述べます」といい、普通は用意したペーパーを読むだけですが、ペーパーを見ることもなく傍聴席に向かって抑揚をつけ語りかける調子で約10分も(驚きです!)判決要旨を述べました。
これにより都教委は、10・23通達(2003年)関連の事件で、25日の再雇用拒否撤回第二次訴訟に続いて敗訴し、再び断罪され、今週だけで司法より痛烈なダブルパンチを浴びせられられました。また、東京「君が代」裁判三次訴訟の31件・26名の減給・停職処分取り消しを除いても、都教委が係わる事件で6連敗(再発防止研修未受講事件(原告福嶋さん)、再任用更新拒否事件(原告杉浦さん)、条件付き採用免職事件(Yさん)、Oさん免職事件の執行停止申立、再雇用拒否撤回二次訴訟、今日の河原井・根津停職事件)となり、都教委の異常性を際だたせる結果となりました。
<判決 主文(抜粋)> ( )内は近藤の注
1 控訴人ら(河原井さん・根津さん)の控訴にに基づき、原判決中、控訴人らの敗訴部分を取り消す。
2 東京都教育委員会が控訴人根津に二対してした平成19年3月30日付け懲戒処分を取り消す。
3 被控訴人(東京都)は、控訴人河原井に対し、10万円及びこれに対する平成19年3月30日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人は、控訴人根津に対し、10万円及びこれに対する平成19年3月30日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
5 控訴人らのその余の請求を棄却する。
6 被控訴人の控訴を棄却する。
7,8 略
<判決文より抜粋 印象的なところ>
★処分量定について
(停職出勤などに言及した上で)これらの行為は,前回根津停職処分が間違っているとの控訴人根津の意思を表明する行為であって,・・・上記の行為を勤務時間中に勤務場所で行ったのではなく,・・・具体的に学校の運営が妨害されたような事実はなく,「日の丸」「君が代」が戦前の軍国主義等との関係で一定の役割を果たしていたとする控訴人・・・の歴史観や世界観に基づく思想等の表現活動の一環としてなされたものというべきであるから。・・・本件根津停職処分における停職期間の加重を基礎づける具体的な事情として大きく評価することは,思想及び良心の自由や表現の自由を保障する日本国憲嬢の精神に抵触する可籠性があり,相当ではないというべきである。
・・・停職処分は,・・・処分それ自体によって一定の期間における教員としての職務の停止及び給与の全額不支給という直接的な職務上及び給与上の大きな不利益を与える処分であって,将来の昇給等にも相応の影響が及ぶだけではなく,・・・条例によれば,停職期間の上限は6月とされていて,停職期間を6月とする本件根津停職処分を科すことは,・・・更に同種の不起立行為を行った場合に残されている懲戒処分は免職だけであって,次は地方公務員である教員としての身分を失うおそれがあるとの警告を与えることとなり。その影響は。単に期間が倍になったという量的な問題にとどまるものではなく,身分喪失の可能性という著しい質的な違いを・・・意識させざるを得ないものであって,極めて大きな心理的圧力を加える結果になるものであるから十分な根拠をもって慎重に行われなければならない・・・。
★本件各処分の違法性及び都教委の過失の有無について
本件各処分が懲戒権者としての裁量権の範囲を逸脱してなされたものとして違法であることは、上記説示の通りであるが、・・・都教育庁指導部は,平成14年11月に本件指導資料を作成し,国旗・国歌の法制化に当たり,主要国会審議における内閣総理大臣,文部大臣及び政府委員からの答弁・・・を掲載したが,その中には,学校における国旗・国歌の指導と,児童・生徒の内心の自由との関係についての答弁として,「学習指導要領に基づいて,校長,教員は,児童生徒に対し国旗・国歌の指導をするものであります。このことは,児童生徒の内心にまで立ち至って強制しようとする趣旨のものでない」との内閣総理大臣の答弁,「単に従わなかった,あるいは単に起立をしなかった,あるいは歌わなかったといったようなことのみをもって,何らかの不利益をこうむるようなことが学校内で行われたり,あるいは児童生徒に心理的な強制力が働くような方法でその後の指導等が行われるということはあってはならない」との政府委員の答弁が掲載されていることが認められ,上記答弁をみると,国旗国歌法制定に至る国会審議の過程においても,国旗国歌に対する起立及び国歌斉唱には,日本国憲法が保障している思想及び良心の自由との関係で微妙な問題を含むものであること・・・「個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなり,その限りにおいて,その者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があること」・・・が意識されていたことが認められる。したがって,国旗国歌法制定に当たって,外部的行為は,思想及び良心の自由との関係で微妙な問題を含むものであることにも配慮して,起立斉唱行為を命ずる職務命令に従わず,殊更に着席するなどして起立しなかった者について懲戒処分を行う際にも、その不起立の理由等を考慮に入れてはならないことが要請されているものというべきである。
・・・また,・・・処分量定はあくまで標準であり,個別の事案の内容や処分の加重につい・ては,表に掲げる処分量定以外とすることもあり得るものと定められていることを考慮すると,本件処分量定が定めている「処分量定の加重」ということは,必ず加重しなければならないという意味での必要的な加重を定めているものではないと解される。しかも,上記認定のとおり,本件指導資料に掲載された本件国会審議答弁には,国旗・国歌の指導に関する教職員への職務命令や処分についての答弁として,「職務命令というのは最後のことでありまして,その前に,さまざまな努力ということはしていかなきゃならないと思っています。」との文部大臣の答弁,「実際の処分を行うかどうか,処分を行う場合にどの程度の処分とするかにつきましては,基本的には任命権者でございます都道府県教育委員会の裁量にゆだねられているものでございまして,任命権者である都道府県におきまして,個々の事案に応じ,問題となる行為の性質,対応(ママ),結果影響等を総合的に考慮して適切に判断すべきものでございます。・・・なお,処分につきましては,その裁量権が乱用されることがあってはならない」との政府委員の答弁,「教育の現場というのは信頼関係でございますので,・・・処分であるとかそういうものはもう本当に最終段階,万やむを得ないときというふうに考えております。このことは,国旗・国歌が法制化されたときにも全く同じ考えでございます。」との文部大臣の答弁が掲載されていることが認められるのであって,このような上記答弁の趣旨は,国旗国歌法制定に当たり,国旗の掲揚や国歌の斉唱に関する指示や職務命令等に従わない教職員に対する懲戒処分を発令する場
合には,問題となる行為の性質,態様,結果,影響等を総合的に考慮して適切に判断すべきであることや、園発令が合理的な裁量嫌悪範囲を逸脱したり、裁量権を濫用してなされるものであってははならない・・・。
★(体罰の事案との比較で 累積加重処分について)
都教委は,体罰に至る背景事情,体罰等の態様,傷害の有無・程度,児童・生徒への影響,過去の処分等を総合的に判断し,.量定を決定しており,個別の事案ごとに処分を決定し,あらかじめ体罰の回数に応じて機械的に一律に処分を加重していくという運用はしていないことが認められる。
そうすると,本件処分量定においても,本件国会審議答弁においても,機械的に一律に処分を加重して行うことには,もともと慎重な検討が要
請されていたものということができる。しかるに,都教委は,上記認定のとおり,平成15年11月から12月にかけて行われた都立学校の周年記念式典以降,入学式,卒業式又は周年記念式典において,校長から起立斉唱行為を命ずる職務命令が発せられていたにもかかわらず,国歌斉唱時に起立しなかった教職員に対して,職務命令違反として,1回目は戒告,2回目は給与1月の月額10分の1を減ずる減給,3回目は給与6月の月額10分の1を減ずる減給,4回目は停職1月,5回目は停職3月,6回目は停職6月の各処分を行っており,このような機械的な運用は,もともと機械的に一律に加重して処分を行うことには慎重な検討を要請していた本件国会審議答弁における各答弁内容や本件処分量定を定めた趣旨に反するものといわざるを得ない。しかも,このような学校における入学式,卒業式などの行事は毎年恒常的に行われる性質のものであって,しかも,通常であれば,各年に2回ずつ実施されるものであるから,仮に不起立に対して,上記のように戒告から減給,減給から停職へと機械的に一律にその処分を加重していくととすると,教職員は,2,3年間不起立を繰り返すだけで停職処分を受けることになってしまい,仮にその後にも不起立を繰り返すと,より長期間の停職処分を受け,ついには免職処分を受けることにならざるを得ない事態に至って,自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教員にとっては,自らの思想や信条を捨てるか,それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一の選択を迫られることとなり,・・・日本国憲法が保障している個人としての思想及び良心の自由に対する実質的な侵害につながるものであり,相当ではないというべきである。
★(累積加重処分の否定)
上記のところを考慮するならば,被控訴人においては,起立斉唱の職務命令に反して起立して斉唱しなかった控訴人らに対して不利益処分を科す際には,その処分が控訴人らの個人的な思想及び良心の自由に対しても影響を与えるものであることを十分に考慮した上,不起立の回数によって機械的かつ一律に加重して処分を行うのではなく,本件各処分の対象となった不起立等の態様や,不起立によって式典にどのような影響が生じたのか等を個別具体的に認定し,想定される処分がなされた場合に生ずる個人的な影響や社会的な影響等をも慎重に検討した上で,それぞれの非違行為にふさわしい処分をすべきものであった。
しかるに,本件では,都教委が控訴人らに対して本件各処分を行うに当たり,本件各不起立の性質,実質的影響,本件各処分によって控訴人らが受けることになる不利益,社会的影響等についても十分に考慮した上で慎重に検討されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。そうである以上,本件各処分には懲戒権者に与えられている合理的な裁量権の範囲を逸脱した違法があるものといわざるを得ず,しかも,上記認定のとおり,本件指導資料に掲載された本件国会審議答弁の内容やその趣旨は、都教委関係者は当然い理解しておくべきであって、・・・機械的かつ一律に処分を加重することを許容すべき者ではないことは明らかで・・・都教委には本件各処分に際して過失があったものと言わざるを得ず、国賠法上も違法性が認められるというべきである。