●10月12日(木)に開かれた都教委定例会の傍聴記です。
請願書を個人あてに出すのはルール違反という教育委員
公開議案は①来年度都立高校等の第1学年生徒の募集人員等について ②来年度都立特別支援学校高等部等の第1学年生徒の募集人員等について、報告は③請願について ④足立地区チャレンジスクール基本計画検討委員会報告書について ⑤立川地区チャレンジスクール基本計画検討委員会報告書について ⑥今年度「全国学力・学習状況調査」の結果について ⑦高度IT利活用社会における今後の学校教育の在り方に関する有識者会議提言について ほか。非公開議題はいつもながら、3件の懲戒処分議案と1件の懲戒処分報告。
「雪谷高校定時制の募集継続を求める請願」を出した人たちが傍聴に来られて久しぶりの抽選傍聴となった。
大杉教育委員の辞任に伴い、新たに教育委員となった北村友人(東京大学大学院教育学研究科准教授 45歳)氏が初出席。
配られた資料はすべて都教委ホームページに掲載されているので、詳細を知りたい方はそれをご覧ください。
①来年度都立高校等の第1学年生徒の募集人員等について
中学校卒業予定者数と学校施設の関係から計算した募集学級の増減等が示された。また、16年2月に夜間定時制(小山台、雪谷、江北、立川)の廃校を決めたことに沿って、来年度は雪谷高校で募集を停止、江北高校で1学級減の1学級の募集とする。昼夜間定時制・チャレンジスクールの夜間部募集を増やす(六本木、大江戸、桐ヶ丘)等の提案。
③請願(「雪谷高校定時制の募集継続を求める請願」)について
請願理由には次のように書かれている。
「貴教育委員会は、・・・4校の夜間定時制の廃校を決定し、・・・雪谷高校定時制を『2年続いて入学者が10名未満で、以後回復の見込みなし』との理由で、・・・募集停止とするとしました。・・・高校卒業資格は自立して生きていくためには必要不可欠な資格です。・・・チャレンジスクールは競争倍率が高く、学びのセーフティネットにはなりません。・・・ハードルの低い学びの場、就職し自立への道につながる学びの場である夜間定時制高校が存続できるよう一層のご尽力をお願いします。雪谷夜間定時制高校の募集状況は、昨年度5名、今年度は3次募集終了現在9名まで回復しています。『回復の見込みなし』と断定できる状況ではありません。・・・」
この請願に対する都教委の回答は、「・・・雪谷高校定時制課程への入学者数は、10人以下の状況が続いており、今後とも応募者の増える見込みは薄いと考えます。このため、東京都教育委員会は、・・・チャレンジスクールの新設やチャレンジスクールと昼夜間定時制高校の規模拡大を行い、その進捗や夜間定時制高校の応募倍率の推移などの状況を考慮しながら、雪谷高校の夜間定時制課程を閉課程し、都立高校定時制課程の改善・充実を進めていきます。」「雪谷高校の定時制課程の閉課程に当たっては、大崎高校、大森高校、松原高校、桜町高校、六郷工科高校普通科などの周辺の夜間定時制課程において、・・・希望する生徒を受け入れていきます。」というもの。
遠藤教育委員は「言われることはわかるが、プライベートに個人に手紙を出すのはルール違反」とムッとした表情で発言した。請願者が都教委窓口に請願書を出した以外に、各教育委員宛に手紙を出したことがルール違反だと言う。
4校の存続を求める署名6万筆が提出されても、都教委は再検討する姿勢を示さない。署名や苦情等が届いたことを事務方が教育委員に知らせるのは、年に2回。その都度ではないのだ。そここそが問題なのだ。にもかかわらず、請願者を非難するとは何事か!遠藤発言にほかの教育委員が異論を出さなかったということは、同じ考えなのだろう。上から目線の思考者には、「底辺」にいる人の気持ちは理解できない。なんとしてもセーフティネットを残さねばとの必死の思いからの教育委員宛の手紙かと寛容な受け止め方をできないのか。悲しく思う。
セーフティネット・代替措置について都教委は、「周辺の夜間定時制課程において受け入れる」と言う。しかし、例えば、都教委が代替として示す松原高校までの所要時間は雪谷高校を起点に公的交通機関を使って1時間以上、更に遠方から通わざるを得ない生徒が出るだろう。これではセーフティネットにならないことは一目瞭然。
なお、「代替措置は万全と考えていいか」(宮崎教育委員)の質問に事務方は、「近隣で受け入れることができる。通学に時間がかかるについては、補講とか考える。」と回答した。都教委政策を補完するためのやらせ質問としか思えなかった。本当に教育委員たちは「代替措置は万全」と考えるのか、聞きたいものだ。
こうしたやり取りの中で「嘘言っている」と傍聴者のつぶやきが聞こえてきた。事務方あるいは教育委員の発言に、「嘘」と思われたのだろう。
夜間定時制の生徒たちの学びの場を奪うことには憚らず、比して、成績優秀の生徒については年間200名の高校生を80万円のみの自己負担(通常300~400万円かかるところ)で1年間海外留学をさせている。ここにあるのは、強者の論理。この論で教育行政をしてはならない。
④足立地区チャレンジスクール基本計画検討委員会報告書について ⑤立川地区チャレンジスクール基本計画検討委員会報告書について
上記①③と関連した報告事項。「チャレンジスクール5校、昼夜間定時制高校6校を設置してきたが、応募倍率は依然高く(1.66倍)、また、夜間定時制の生徒数の減少により、義務教育段階での学習内容の定着を図るための学び直しの充実が求められている」ことから、2校のチャレンジスクールを新設するというもの。足立は2022年、立川は2023年開校予定。応募倍率の多少の緩和はあっても、チャレンジスクールの新設・増学級が夜間定時制の受け皿になるとは到底思えない。
⑥今年度「全国学力・学習状況調査」の結果について
データをもとに、「小学校は平成19年度の調査開始以降、中学校は平成25年度以降、全国平均正答率を上回っており、小中学校ともに、その状況を概ね維持している。」「政令市と比較すると、すべての教科において平均正答率及びA層(注:上位25%)の割合が高い。」「学校ボランティアの仕組みがある学校については、保護者や地域の人が学校の教育活動に参加している割合は増加しており、参加している割合が高い学校ほど正答率が高い。」等との報告がされた。得点を競い合うことに意味があるのか、弊害はないのかという論議はない。
2005年都学力テストの際、足立区の幾つもの学校で校長の指示の下、教員が机間巡視をして子どもたちに誤答を教えるなどの不正を行なったことが発覚したが、この件について、都教育委員会定例会で議題にしたり声明・報告をしたことはないまま、今に至る。知識を身につけさせることは大事だが、「全国学力テスト」に振り回されることの弊害について、事務方も教育委員も真剣に考えるべきだ。
⑦高度IT利活用社会における今後の学校教育の在り方に関する有識者会議提言について
「高度IT利活用社会に於いては、・・・基礎的なスキルの醸成とともに、高度IT人材の育成も必要」「次期学習指導要領では小学校からプログラミング教育を導入」することから、4回の有識者会議を経てまとめられた「提言」が報告された。しかし、これが基礎学力だろうか。関連企業を潤すばかり。学校は子どもたちの個の確立、思想・良心の自由形成の場であるべきなのに、また一つ、それが奪われていくのではないかと憂鬱になる。